【媒介契約の取説】
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そもそも媒介契約とは、
『所有する不動産の売却を希望する売主が、売却仲介を依頼する宅地建物取引業者との間で、どのような条件で売却活動を行い、成約した際の報酬金額をどのようにするのかといった内容を書面で取り交わす契約のこと』。
いわば不動産会社にどんな売却活動を依頼するかが記された不動産売却の設計図の様なもの。
それゆえ媒介契約について理解することは不動産売却を成功させるのに欠かせない要素となります。
最近、弊社への不動産売却のご相談が増えており、媒介契約についてはこれさえ読めば大丈夫!と言える様な”媒介契約の取説“を作ることにしました。
対象は、福岡市及びその周辺エリアで不動産の売却を検討している不動産取引初心者の方。
媒介契約の必要性について理解した上で、どの媒介契約を選べばよいか判断できる様になることを目標に書きました。
疑問点等ありましたらどうぞ遠慮なくお問合せください。
【ご注意事項】
※1 媒介と仲介はほぼ同じ意味ですので、以下媒介と書いてあるものは、仲介と置き換えて理解して頂いて大丈夫です。
※2 文中に出てくる宅地建物取引業者は不動産会社のことです。
投稿者:増崎 慶太
Park Estate 代表
中央大学大学院法学研究科民事法修了
宅建士・賃貸住宅経営管理士・相続診断士
米国不動産経営管理士(CPM)取得中
元自動車メーカーカーデザイナー
家族:妻、子供2人
【媒介の取説❶】媒介契約はなぜ必要なのか?
Why is Brokerage contract necessary?
媒介契約の必要性を理解するには、その歴史を知るのが一番の近道。まずは一緒にその歴史を紐解いていきましょう!
早速ですが、媒介契約の制度がスタートしたのは、まだ元号が昭和だった1982年(昭和55年)。
当時、民法には媒介契約に関する条文が存在しておらず、宅地建物取引業者が依頼者との間に書面を取り交わす習慣もほとんどなかったため、媒介に関する契約関係は非常に曖昧でした。
これらが理由で、媒介報酬や宅地建物取引業者の注意義務等をめぐる紛争が日本全国で多発し由々しき社会問題となっていたことから、1982年(昭和55年)に宅地建物取引業法が改正され、媒介契約の条文(宅地建物取引業法34条の2)が加わりました。
当初、媒介契約の種類は一般媒介と専任媒介の2種類のみでしたが、8年後の1990年(昭和63年)には、これに依頼者が自ら探してきた相手方と契約すること(自己発見取引)を禁止する専属専任媒介契約が設けられ現在に至ります。
まとめますと、3つの媒介契約は、言った・言ってないという依頼者と宅地建物取引業者の間の不毛な紛争を防ぐ意図で、宅地建物取引業者に依頼した不動産仲介業務の内容を文書化するために設けられました。
宅地建物取引業者は媒介契約で取り決めた内容に沿って売却活動を行います。
そのため不動産売却の仲介を宅地建物取引業者に依頼する売主は、3つの媒介契約についてそれぞれしっかり理解した上で1つを選び、不動産会社と媒介契約を結ぶことが大切となります。
次のセクションでは、一般媒介、専任媒介、専属専任媒介、3つの媒介契約についてその特徴を一覧表にまとめましたので、ご覧下さい。
【媒介の取説❷】一般、専任、専属専任、それぞれの違いは?
Explanation of the difference between the three types of brokerage contracts
一般媒介、専任媒介、専属専任媒介の違いでいうと、やはり複数の不動産会社との媒介契約締結が可能か否かは、一番大きな違いになるかと思います。もちろん下記項目のどれも大切ではあるのですが。
なお、媒介契約の説明で触れられることはほぼありませんが、実務において盲点となるのが、最後の媒介契約期間中の解約です。
詳しくは次のセクションにて、ご説明いたします。
一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | |
不動産流通機構(レインズ)登録義務 | ✖️ | ◯ | ◯ |
登録義務はない | 媒介契約締結から7日以内に登録 | 媒介契約締結から5日以内に登録 | |
複数の不動産業者との媒介契約締結 | ◯ | ✖️ | ✖️ |
同時に複数社と媒介契約可能 ※明示型・非明示型選べます | 媒介契約は一社のみ | 媒介契約は一社のみ | |
契約期間 | 定めなし | 最長3ヶ月 | 最長3ヶ月 |
行政指導により3ヶ月が一般的 | |||
販売状況報告の頻度 | 規定なし | 14日に1回以上 | 7日に1回以上 |
自ら買い手を見つけた場合 | ◯ | ◯ | ✖️ |
不動産会社の仲介なしに直接売却可能 | 不動産会社の仲介なしに直接売却可能 | 不動産会社の仲介が必要 | |
媒介契約期間中の解約 | いつでも可能 | 自己都合の場合は違約金が発生するケース有 | 自己都合の場合は違約金が発生するケース有 |
【媒介の取説❸】福岡市にて不動産売却する場合、3種類の媒介契約からどれを選べば良いか?
Which one should I choose from the three types of borkerage contracts?
依頼者の立場からすると一社にお願いする専任媒介(または専属専任媒介)の方が、コミュニケーションも楽ですし、定期的な進捗報告も受けられるので一番良いように思えます。
また、宅地建物取引業者の立場からも、専任媒介(または専属専任媒介)でご依頼頂いた方が、信頼して自分の会社だけに任せて頂いたからこそモチベーションが高まりますし、じっくり業務に取り組みことが出来ます。
それに加えて不動産購入希望者を探す主戦場が、不動産ポータルサイト(福岡県では、弊社も所属する福岡県宅建協会運営の”ふれんず”が物件数最大規模を誇ります)となった今日、一般媒介で複数業者に不動産売却の仲介を依頼して成約が早まることは稀です。
むしろ逆に不動産ポータルサイトに複数業者から同じ物件が紹介されていることは、結果的に売れ残り感を演出してしまうため、逆効果となってしまいます。
そのため今日では、性善説に立つと、自ずと専任媒介(または専属専任媒介)一択ということになるのですが、そうは行かないのが、不動産業界の難しさ。
というのも、お聞きになったことがある方もいらっしゃるかも知れませんが、専任媒介(もしくは専属専任媒介)で依頼をすると、囲い込み(下記コラムでご説明しています)等を行い、依頼者の利益を損なう取引を行う不動産会社が会社の規模を問わず一定数いるから。
これがほぼ唯一にして最大の専任媒介(もしくは専属専任媒介)のデメリットになります。
そのため場合分けをして、一般媒介が適している場合、専任媒介(もしくは専属専任媒介)が適している場合の2パターンに分けて考える必要があります。
媒介契約コラム❶
囲い込みとは
囲い込みとは、売却の仲介を依頼された物件について、他社からの購入希望者をブロックしつつ、自社でその物件を買う人を見つけ、売却と購入の両方を自社で成約させようとする不正行為のこと。
囲い込みを行なった不動産業者は「指示処分」や「業務停止処分」といった行政処分を受けたり、民事責任、刑事責任を問われることがあります。
ちなみにアメリカでは売主と買主の両方の仲介をすること(両手仲介)自体が禁じられていますが、日本においては、両手仲介自体は合法です。
あくまで、他社からの購入希望者をブロックする行為が、”囲い込み”と呼ばれる不正行為に該当します。
例えば、上記一覧表に書いてある通り、専任媒介契約や専属専任媒介契約を結んだ不動産会社は、レインズと呼ばれる不動産業者向けの物件情報データベースに物件登録をする義務があります。
これに反してレインズに登録をしなかったり、登録してもすぐに削除をしたりする行為が囲い込みに当たります。
また問い合わせの連絡が来ても「その物件には購入申し込みがあった」などと嘘を伝えて他社経由のお客さんに物件を売却しないようにブロックし、自社で売却購入両方の仲介を制約させようとする行為も”囲い込み”に当たります。この行為については立証が難しく結果的に野放しになっている現状があります。
特に大手不動産会社の営業は毎月のノルマが厳しく、売上を達成させる為には心苦しくも囲い込みをせざるを得ないという事情があると思われます。決して弁護するわけではありませんが、同じ取引でも片手と両手では売上が2倍も異なってくるのですから、囲い込みが発生するのも無理もない側面があります。
その点、弊社は売上ノルマがない効率的な経営をしておりますので、どうぞご安心下さい。
結局のところ、この問題を解決するには、アメリカと同様に日本においても、売主もしくは買主どちらか片方の仲介しか出来ないように法改正をするしか方法はないと弊社は考えます。
※アメリカの不動産に関しては、国土交通省が便利な不動産関連情報のまとめページを公開していますので、そちらをご覧下さい。
一般媒介が適している場合:一括査定を利用した場合など、不動産会社の種類や規模に関わらず、代表や担当者と面識がない場合
代表や担当者と一切面識がない一見さんの場合は、残念ながら、囲い込みされる可能性は0ではありません。
そして囲い込みが本当に厄介なのは、依頼者である売主が気づくことはほぼ不可能であるということ。
仮に運良く気付くことができた場合でも媒介契約の解除という別の問題が。
というのが専任媒介ないし専属専任媒介契約を解除するには依頼者側で不動産会社の不誠実な行為を証明する必要があり、これが出来ない場合は逆に違約金を請求される恐れがあり、結果的に依頼者はなかなか媒介契約の解除に踏み切れないのです。
これらを総合的に考えると(決して前向きな理由ではありませんが)、囲い込みをされる可能性が高い場合は、一般媒介を選んだ方が得策だと弊社は考えます。
そして一般媒介を選ばれた場合、特段の事情がない限りは原則1社、多くとも2社への仲介依頼に留めておくことをお勧めします。
複数の不動産会社への仲介依頼は、先ほどお伝えした様にインターネットをベースとした売却活動が主流となっている今日においてはむしろデメリットの方が大きいからです。
専任媒介等が適している場合:知人からの紹介等、不動産会社の代表や担当の人となりが分かっている場合
知人からの紹介やWebサイトのコンテンツ等から、不動産会社の代表や担当の人となりが分かっており信頼関係が構築出来ている場合は、専任媒介もしくは専属専任媒介をお選び下さい。
先ほどお伝えした様に、本来、専任媒介もしくは専属専任媒介の方が、仲介の依頼を受けた不動産会社は売主様からの媒介報酬が確定するため、腰を据えてお預かり頂いた物件の売却活動に取り組める様になるため、短期間でのスムーズな売却が可能となるケースが多くなります。
また専任媒介や専属専任媒介では、上記一覧表に記載の通り、2週間ないし1週間に一度の業務報告義務がありますので、売却活動の進捗が定期的に把握出来る点も見逃せないメリットです。
専任媒介と専属専任媒介はどちらを選ぶべきか
基本的には、専任媒介で良いと弊社は考えます。
というのが、法律で定められた専属専任媒介の1週間に1度の業務報告は、最初の1~2週間は良いですが、売却活動が1ヶ月を超えてくると頻度が多すぎると思われるからです。
ただし、専任媒介で認められている直接取引(自ら見つけてきた購入希望者と直接取引すること)はトラブルの元となります。
親しい親族間の取引である場合や、よほど不動産取引に関する実務や法律に強い方でない限りはお勧めはしません。
【媒介の取説❹】媒介契約の選び方のまとめ
Which one should I choose from the three types of borkerage contracts?
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
改めて、不動産売却の仲介を不動産会社に依頼する際の媒介契約の選び方をまとめますと、媒介契約を締結しようとする不動産会社と売主の関係性の違いによって、以下のように媒介契約の選択肢は変えた方が良いというが、Park Estateのアドバイスです。
どうぞ不動産売却を検討する際の参考にされて下さい。
◾️信頼関係が出来ている不動産会社
↓
専任媒介一択でOK。
◾️不動産会社代表や担当を知らない場合
↓
一般媒介が無難な選択肢
媒介契約コラム❷
仲介手数料の発生時期について
不動産会社がお客様から仲介手数料をお支払い頂く根拠も、やはり媒介契約にあります。
媒介契約は『宅地建物取引業者が当事者の間に立って売却依頼から売買契約までを斡旋・サポートするもの』と”宅地建物取引業法34条の2”に定められています。
そのため、媒介契約に基づく仲介手数料は物件の引き渡し時ではなく、売買契約の成立と同時に発生します。
とはいえ、実務上、契約成立後引渡し時に仲介手数料を請求する不動産会社が多いと思います(弊社も同様です)。
注意が必要なのが、売買契約成立後に、買主が売主へ支払った手付金を放棄して、もしくは売主が手付金の倍返しを買主へ行い売買契約を手付解除した場合です。
この場合においても売買契約は一度成立していますので不動産仲介会社への仲介手数料の支払義務は発生しています。この点、どうぞご留意下さい。